王道恋愛はじめませんか?



『あ、俺?俺は…――これ。』


そう言って杉原さんから差し出されたのは、文庫本だった。

表紙を見れば、さっき私が文庫本コーナーで最初に目をつけたものの、サイズが気に入らなくて買わなかった本。

だけど、杉原さんが差し出したものは、まさに私の抱えていた問題をクリアした、手の平サイズの文庫本だったわけで――…


「こっ、この本っ、どこにあったんですか!?」


思わず、一際大きな声が出てしまった。

最近では、有名な作家さんであればあるほど、一つの作品でも違う出版社で多く出版されていることも普通で、目の前に置かれたその本はまさしく、私がさっき見た本を出している出版社とは違う名前が書かれていた。


『え?あー…さっき、俺が立ってたブースのこの作家欄にあったけど?』

「そっ…そうなんですか…」


も、盲点だった…。

もっと根気よく探さなかった自分が悪い。

でも、杉原さんがこれを買ってるってことは、もうあそこにはないだろうなー…在庫、まだあるのかなぁ…?

そう思いながら、マジマジと見つめていたのが、杉原さんに余計な気遣いをさせてしまうことになる。


『……この本、欲しかった?』

「へっ…」

『このサイズの文庫本の方が読みやすいだろうし……良かったら、あげるけど。』


えっ――…

一瞬でも、素直に"欲しい"と思ってしまった自分は、なんて浅ましい女なのかとすぐに後悔した。


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