王道恋愛はじめませんか?



数秒、杉原さんと文庫本を交互に見つめつつ、自分を咎める。


コラコラコラ

ただでさえ、あの杉原さんにお茶に誘ってもらっただけでもおこがましいところなのに、これ以上はだめでしょう…!


自分の心の中にある欲求と、モラルを考えれば、言うことはただひとつ。


「いっ、いえ…!そんな、杉原さんがお買いになったものなんですから…!」

『でも、読みたいんじゃないの?』


うっ

さっきの沈黙で、私の本心は悟ったらしい杉原さんは、天使の微笑みで核心を突いてくる。


「いや、あのっ…でも、読みたいですけど、私が後で本屋さんで買えば良い話なので…」


これ以上、杉原さんに良くしてもらう義理はないはず。

もう会うこともないのに、謙遜もない女だったって思われるのも嫌だし…。


『そう?でも…実は2冊買っちゃってるんだよね。』

「……え?」


杉原さんの大きな手から出て来たのは、テーブルの上に置かれている本と瓜二つの、というか、全く同じ物だった。



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