王道恋愛はじめませんか?
え、な、な…っ、何で2冊?
思わずテーブルに並べられた物を凝視していると、杉原さんは恥ずかしそうに口を開いた。
『……一つは俺の分なんだけど、片方は佐倉のもんなんだ。』
「え……」
佐倉さんと言えば、Shineのメンバーの一人、佐倉 徹さんだ。
テレビで見た限り、寡黙な人で、ちょっと独特の雰囲気がある人だけど、自分の仕事にはストイックな印象を受けている。
『前に、俺がこの作家の本を進めた時にさ、"そんなに言うなら、読ませてよ"って言われてさ。タイトル言っても、面倒だから買って来いって、言われてね。』
あ…だから、2冊なんだ。
言いにくそうにしつつも、どこか嬉し気に話してくれる杉原さんを見て、私も笑顔がこぼれる。
「…杉原さん、佐倉さんと仲が良いんですね。」
『え、』
「だって、普通、佐倉さん用にもう一冊買ったりしませんよ?自分が読んだ後に、貸してあげればいいのに、買ってあげるだなんて。優しいんですね、杉原さんって。」
一ヶ月前のあの時も、わざわざ私の探し物に付き合ってくれたり、今日もこうして、友人のためにもう一冊同じ本を買ってあげたりするなんて、杉原さんは根っからの心優しい人なのだと、再確認する。
世の中には、こんな人がいるのだと思うと、緩んだ頬は緩みっぱなしで。
きっと、情けない顔をしているとは思ったけれど、目の前の杉原さんの耳がこれ以上なく真っ赤になっているものだから、さらに笑ってしまうのだった。