王道恋愛はじめませんか?



――嘉人 Side――


今日ほど、俺は"偶然"というものに感謝したことはないだろう。

さかのぼること、数時間前。

俺はいつもの変装をして、近所から少し離れた本屋に出かけた。


そこで、立ち読みしている俺にぶつかってきたのが、目の前で微笑んでいる彼女だった。

一ヶ月前、お守りを失くして泣きそうになっていた彼女。

名前も聞けずに、別れてしまった、彼女だ。


さっき、俺が本屋で買った本について、佐倉と俺用にと2冊も同じ本を買った経緯を話すと、彼女はあの柔らかな微笑みでずっとクスクスと笑っている。

言葉の節に言われた、彼女の"優しい"の言葉と、彼女の微笑みに過剰反応を起こしてしまった俺は、柄にもなく、両耳を熱くさせてしまっている。


『そんなに笑わなくても…。』

「あっ…ごめんなさい。つい、杉原さんが良い人なので。」


ああ、貴女は天使か。

いや……どちらかといえば、小悪魔なのか。天然系小悪魔だな。

俺の気持ちも知らないで、そんな可愛い顔を晒して微笑んで、挙句の果てに俺を"良い人"だと褒めるなんて。

きっと彼女の周りには、笑顔が絶えないんだろうなと思いながらも、それがうらやましくもあった。



< 34 / 190 >

この作品をシェア

pagetop