王道恋愛はじめませんか?
――嘉人 Side――
今日ほど、俺は"偶然"というものに感謝したことはないだろう。
さかのぼること、数時間前。
俺はいつもの変装をして、近所から少し離れた本屋に出かけた。
そこで、立ち読みしている俺にぶつかってきたのが、目の前で微笑んでいる彼女だった。
一ヶ月前、お守りを失くして泣きそうになっていた彼女。
名前も聞けずに、別れてしまった、彼女だ。
さっき、俺が本屋で買った本について、佐倉と俺用にと2冊も同じ本を買った経緯を話すと、彼女はあの柔らかな微笑みでずっとクスクスと笑っている。
言葉の節に言われた、彼女の"優しい"の言葉と、彼女の微笑みに過剰反応を起こしてしまった俺は、柄にもなく、両耳を熱くさせてしまっている。
『そんなに笑わなくても…。』
「あっ…ごめんなさい。つい、杉原さんが良い人なので。」
ああ、貴女は天使か。
いや……どちらかといえば、小悪魔なのか。天然系小悪魔だな。
俺の気持ちも知らないで、そんな可愛い顔を晒して微笑んで、挙句の果てに俺を"良い人"だと褒めるなんて。
きっと彼女の周りには、笑顔が絶えないんだろうなと思いながらも、それがうらやましくもあった。