王道恋愛はじめませんか?



『…良い人なんかじゃないよ。』

「いいえ。杉原さんは絶対、良い人です。」


ッ――…

ああ、もう

調子が狂うじゃないか。

生まれてこの方、この容姿と何でもそつなくできていたおかげで、異性からの褒め言葉にも、異性の扱い方も、人並み以上には慣れているけれど、彼女の前では全くそれが通用しない。

彼女の褒め言葉に心を掴まれ、彼女の扱い方が全く分からない。

どうすれば笑ってくれるか。

どうすれば俺に好意を抱いてくれるか。

まぁ、俺を良い人だと言ってくれている時点で、俺に対する負の感情は持っていないのだろうと想像できるけど――…俺は、それ以上のものが欲しいと、すでに思ってしまっている。


「い、いいから、その話は。」

『もういいんですか?楽しいのに。』


ふふっ、と可愛らしい笑い声を零した彼女。

どうやら、彼女の方が俺より一枚上手らしい。


「いや、だからさ……これ、あげる。」

『え?』


これ以上やってると、ちっとも話が進まなくなると踏んだ俺は、半ば強引に話を進めた。

ずいっと、彼女の方に、佐倉に渡すつもりだった片方の本を差し出すと、目を丸くさせていた彼女はまた、ふにゃりと顔を緩める。



< 35 / 190 >

この作品をシェア

pagetop