王道恋愛はじめませんか?
『…良い人なんかじゃないよ。』
「いいえ。杉原さんは絶対、良い人です。」
ッ――…
ああ、もう
調子が狂うじゃないか。
生まれてこの方、この容姿と何でもそつなくできていたおかげで、異性からの褒め言葉にも、異性の扱い方も、人並み以上には慣れているけれど、彼女の前では全くそれが通用しない。
彼女の褒め言葉に心を掴まれ、彼女の扱い方が全く分からない。
どうすれば笑ってくれるか。
どうすれば俺に好意を抱いてくれるか。
まぁ、俺を良い人だと言ってくれている時点で、俺に対する負の感情は持っていないのだろうと想像できるけど――…俺は、それ以上のものが欲しいと、すでに思ってしまっている。
「い、いいから、その話は。」
『もういいんですか?楽しいのに。』
ふふっ、と可愛らしい笑い声を零した彼女。
どうやら、彼女の方が俺より一枚上手らしい。
「いや、だからさ……これ、あげる。」
『え?』
これ以上やってると、ちっとも話が進まなくなると踏んだ俺は、半ば強引に話を進めた。
ずいっと、彼女の方に、佐倉に渡すつもりだった片方の本を差し出すと、目を丸くさせていた彼女はまた、ふにゃりと顔を緩める。