王道恋愛はじめませんか?
『…ほら、やっぱり杉原さんは優しい。』
そう言いつつも、彼女は俺が差し出した本には目も向けず、受け取ろうともしなかった。
最初に、欲しいのかと聞いた時には、あんなにも"欲しい"と表情で訴えていたのに。
『いいんですか?私、佐倉さんじゃないですよ?』
楽し気に、彼女はそう言う。
正直、もう俺にとって佐倉のことなんてどうでもよかった。
俺は、俺と同じようにこの本を読みたいと思っている彼女に、この本をあげたいと思ったのだから。
「いいよ。…佐倉には、俺が読み終わってから、こっちの本を渡すから。」
さっき彼女に言われて、そう言われてみればそうだと思ったんだし、仕方ない。
『でも……、それじゃあ佐倉さんに悪いですよ。』
佐倉に引け目を感じでいるのか、彼女の微笑みにほんの少し、影がかかる。
それを見た途端、俺の口は止まらなかった。
「いいんだよ。佐倉は文庫より漫画を好むタイプだし。俺はどっちかっていうと、漫画でも活字を追っちゃう方なんだけど、佐倉は活字なんて読まずに絵だけを追うタイプだから。」
『そう、なんですか…?』
「ああ、それに…俺が君にあげたいと思ったんだ。ここは俺の気持ちも汲んで、受け取ってくれると嬉しいんだけど。」
最後は、ちょっと強引すぎたかと思ったけれど、彼女にはこれくらいがちょうどいいだろう。
きっと彼女は、こうでも言わないと、いつまでたっても佐倉に対する負い目を感じて、受け取ってくれないだろうから。