王道恋愛はじめませんか?



ぶつかったといっても大したものではなく、足がもつれただけだった。


『っ、どこ行った!?』

「ッ!」


近くで、警備員の声が聞こえる。

どうやら私の姿を見失ったらしいが、角を曲がればすぐに見つかってしまう。

ぶつかった相手の顔さえも見る余裕もなくて、とにかくホールの入り口を探そうと走り去ろうとした時、


『あっ、待って!』

「っっ!?」


後ろから私を呼び止める声が聞こえたと同時に、左腕を掴まれた。

どこかで聞いたことのある男性の声。

それが誰か答えは出ないまま振り返れば、そこには先程までステージ上で誰もが見惚れるパフォーマンスを見せていたShineの杉原 嘉人さんがいた。

つまり、さっき私がぶつかったのは、この人。


「す…っ、すみません…!」


きっと、私がぶつかって、何も言わずに走り去ろうとしているから、癇に障ってしまったのだと思った私は、取り繕うように謝罪の言葉を口にした。


『いや、そうじゃなくて…君、誰かに追われてるの?』

「え…っ、」


初めて目の前にした芸能人。

その圧倒的なオーラに固まってしまうのは仕方ないと思う。



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