王道恋愛はじめませんか?
――嘉人Side――
俺は今、目の前の光景を信じられない心境で見つめていた。
ある週の日曜日。
俺はメンバーと共に、CM撮影をするために都内にある製菓会社の本社に来ていた。
俺らの応対を主にしてくれた広報の人と控室で次のシーンの撮影まで休憩を取っていると、突如現れた人物に、俺は数分前から釘付けになっていたのだ。
『――あ、ちょっといいか?真山。』
遠くから、長身の誰が見たって爽やかだと言いそうな風体をした男性が彼女を呼ぶ。
彼女は後輩を先に退室させると、いそいそとその男性の元へと向かい、何やら言葉を交わしている。
そんな2人の仲睦まじそうな光景を見つめながら、俺の心はザワザワと大きな音を立てていた。
というのも、数分前に彼女と一緒に入室してきた後輩の女性が発した、彼女と長身の彼がお似合いカップルだという羨みの声。
彼女が入室してきた時から、なんだかあの男性とは親密そうな雰囲気を発していたから、もしかしてとは思っていたが――…あの女性の一言で、俺の嫌な予感は一気に現実味を帯び始めた。
『じゃあ、お先に失礼します。』
ハッと意識を戻したときには、彼女は男性との会話を終え、この場を後にしようとしているところだった。
ガタッ…――
『よっちゃん?』
急に手にしていた本をテーブルに置いて立ち上がった俺を驚いたらしく、隣に座っていた浩介が首を傾げた。
「…トイレ行ってくる。」
追いかけなきゃ
控室の扉が閉まっていく奥にある彼女の背中を見た瞬間、俺は悩むより先に身体が動いてしまっていた。