王道恋愛はじめませんか?
控室を出て辺りを見渡せば、誰もいない廊下で彼女を見つけるのは至極簡単なことだった。
どんどん小さくなっていく彼女の背中を追いかけようとして、乾いた喉が小さく鳴った。
しかし、そんな小さなことに構ってられない俺は、すぐに彼女の後を追う。
「――待って…!」
『え…っ?』
突然後ろから声を掛けられて驚いたのか、肩を小さく上下させた彼女はゆっくりと俺の方に振り向く。
その動作が、俺にはとてもスローモーションのように見えて、意味もなくドキリとしてしまう。
――彼女の瞳が俺を捕えたとき、それはより一層大きく作用する。
『――す、ぎはらさん…っ!』
声を掛けたのが俺だと分かった瞬間、彼女――みのりさんは、目を見開いて驚きを隠せない表情を見せた。
「…また、偶然だね。」
思い起こせば、出掛けた先の本屋で彼女と偶然会ったのは一週間ちょっと前の話なのに、こうして彼女を目の前にすると、そんな出来事がもう随分前のことのように感じられる。
『そう、ですね…。』
そう言って、はにかみながら横髪を梳く動作を見せる彼女は、心なしか照れているように見えた。