王道恋愛はじめませんか?
「――あつ……」
定時に上がり、熱を含んだ夜風が頬を嬲ったとき、どうしても感じてしまう夏特有の暑さ。
日が沈んだ今も体感温度は高く、すでにジャケットを脱いでいる私は、カッターシャツも肘までめくり上げて、待ち合わせ場所に立っていた。
つい一週間前、私は約束していたビーズアクセを完成させた。
――までは良かったものの、中々杉原さんに連絡するタイミングが掴めずにどうしようかと悩んでいたとき、ちょうど杉原さんから食事の誘いを受けたのだ。
その誘いは電話によるもので、初めて聴く杉原さんの電話越しの声に若干ドキドキしながらも、正直にビーズアクセが完成し、連絡するつもりだったと伝えれば、楽しみにしてる、という期待を込めたような杉原さんの返事が返ってきて。
その言葉を聞いた瞬間に、数週間前の車内での杉原さんとの会話も思い出した私は、何故か勝手に照れていたことを思い出す。
互いの予定を確認しあい、会う日程を立てた後、ふとした瞬間に杉原さんを思い出すようになった私。
テレビを見てても、杉原さんが出ていないかチェックしたり、意味もなく杉原さんの連絡先の画面を見つめたりと、何かとソワソワした数日を過ごした。
こんなんじゃダメよ、みのり…。
彼の前では平然に、今まで通り接するのよ。じゃないと…――
『みのりさん?』
「っ…!」
キュッと気を引き締めなおしていると、ふと後ろから声を掛けられて振り向けば、そこには以前も見た黒のキャップを被った杉原さんが立っていた。