王道恋愛はじめませんか?
今回も、杉原さんが連れて行ってくれたレストランは全室個室の有名店で、今まで食べたことのないような美味しい料理を食べさせてくれた。
今夜もまた、杉原さんのお財布に甘えちゃったし…。
食事中、お互いの近況の話で盛り上がり、完全にビーズアクセを渡すタイミングを見失った今、私は杉原さんの運転する車で、待ち合わせ場所に指定していたあの大公園へと向かっていた。
ちらり、と隣でハンドルを握っている杉原さんを盗み見ては、トクントクンと私の心臓は忙しなく音を立てる。
ああもう、格好いいなぁ…。
きっと、助手席に座っている私が、彼の運転する姿を見てドキドキしているなんてこと、杉原さんは思ってもみないだろう。
彼が芸能人ってこともあるけれど、現に杉原さんはどんな造作も画になる。
歩く姿も、食事してる姿も、さりげなく私をエスコートしてくれる姿も、当然――…運転中の姿だって。
彼の視線が私を捕える度、彼の瞳に私が映る度、彼が私の名前を呼ぶ度に、私の正直な胸は幾度となく締め付けられる。
もう私だって20代後半の女だ。
この心の中で育っていく想いに、気付かないほど鈍感じゃないし、バカでもない。
だけど、今まで恋愛というものを人並み以下程度にしかしてこなかった私には、その想いをどうするのかが分からない。
だから、蓋をするしかないのだ。
厳重に、隣の彼に1ミリだって気付かれないように、何重にも鎖をかけて――…
『…着いたよ。』
隣から聞こえた低い声にハッとすれば、遠くに大公園が見えた。
……今は、杉原さんと過ごす貴重な時間を、めいっぱい楽しもう。
それが先決だ、と考えた私は、彼に続くように車から降りた。