王道恋愛はじめませんか?
「みっ、見てないです!見てないですよ…!」
『……。』
「杉原さんが子供じゃないってことくらい、分かってますから…!」と、必死にフォローするも、依然彼はツーンとしたまま。
徐々に、彼と私の距離が近づいているのは明白だった。
こんな彼の意外な一面なんて、初めてあった時には想像もできなかったもの。
…だけど、そろそろ機嫌を直してもらわないと困る。
こんなんじゃあ、いつまでだっても渡せないじゃない、アレが。
「…杉原さん?」
『……』
「ねぇ、杉原さんってば」
ちょんちょんっと彼の右裾を小さな力で引っ張れば、ピタリと杉原さんが前に進めていた歩を止めてくれた。
やっと私の言葉を聞いてくれる、と安心した瞬間、私の頭上に影がかかる。
(え…っ?)
気付けば、今まで近づいたことのない至近距離に杉原さんがいて、私を見つめていることにドキッとする。
『あのさ、前から思ってたんだけど、』
「…?」
『――その、“杉原さん”って呼び方、やめてくれない?』
……え…?
いきなりすぎる杉原さんからの指摘に、私は更に目を丸くさせた。