王道恋愛はじめませんか?
『もう、俺はみのりさんのこと他人だなんて思ってないし、出来れば、その他人行儀な呼び方をやめてくれると嬉しいんだけど。』
「……!で、でも、」
あまりに突然で、しかも至近距離に杉原さんがいるという状況の中、私の脳内はプチパニック。
杉原さんに私のことを他人以上の人間として見てもらえていたことが嬉しいはずなのに、否定の言葉を反射的に紡んでしまう。
『俺のこと、下の名前で呼ぶのは、やっぱり嫌?』
「っ、ちが――…っ!」
整った眉をハの字にして、捨てられた子犬のような表情で、悲し気なトーンで言われて、更に状況が悪化した。
この至近距離にその表情…!
杉原さんって、とんでもない策士なの…っ!?と、混乱が続く私だけど、この状況を招いたのは紛れもなく私にある。
『…嫌なんだ。』と、明らかに肩を落とされて、私に背を向けようとした杉原さんの右腕を、焦って掴む。
「ちっ、違います…!嫌じゃないです、本当です」
お願いだから、誤解だと杉原さんに届いて。
私の必至な様子から察してくれたのか、向けかけていた背中を戻し、杉原さんは再度私に向き直ってくれた。
……このタイミングを逃したら、きっと彼のことを下の名前で呼ぶことは一生ないだろう。
どことなくそんな予感がした私は、ゆっくりと小さく唇を開く。