この感情を僕たちはまだ愛とは知らない
せっかく見たかったテレビもこれじゃあ意味がない
隣で律のスマホが鳴る
「はい」
どうやら仕事の話しのようで私は言う
「気にしないで」
スマホを置いた律が言う
「なにが?夜勤だからおまえが寝るまではいれるしなんなら一緒に寝る?」
「遠慮します」
「俺は本気だよ」
「私はイヤなの」
律は立ちあがったかと思ったら写真たてを床に投げつけた
音がして破片が飛び散るまでの数秒
私はただスローモションのように落ちて粉々になる思い出をみつめることしかできなかった
「忘れろよぜんぶ忘れちまえ」
「律···」
「あぁ悪い
わかってんだよ
悪かった
シャワー借りる」
律は自己解決してお風呂場の方に行ってしまった
私は片付ける気にもなれずスマホで検索していた
なんで私、若い雄犬で検索してるんだろう
発情期の雄犬は手に負えないなど様々な問題があるようだ
って律は犬じゃないし
私はスマホを投げだした
律と体の関係···
拒んでるのは私
迷ってるのは私
32の私が若い子となんて笑っちゃう
シャワーを浴びてきた律はタオルをかけたまま上半身裸だった
「ちょっと」
「なに?」
背中にはヤタガラスの羽根
「なんでもない
私もう寝るね、おやすみ」
ぷいっとそっぽを向いたつもりだった
律は急に近づいてきたかと思えばいきなりキスしてきた
「そうじゃねぇだろ
いってらっしゃいだろ」
「あっえっと勝手にすれば」
かわいくない···
律もそう思ってるに決まってる
でもちゃんと言えない
気持ちはいっぱいいっぱいで言葉は空回り
「まったくおまえは」
「本当にごめん」
「じゃあ行ってくるから」
「うん気をつけてね」
律はシャツを着ると玄関のほうに行ってしまった
小さく手を振って私も後片付けをして部屋に戻った
遠くに聞こえるバイクの音
私はそれを聞きながら眠りについた
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