この感情を僕たちはまだ愛とは知らない
律はそのままバタンとドアを閉めて行ってしまった
悪いのは私でも追いかけられなかった
俺はバイクをはしらせて修司のアパートに転がり込んだ
「悪い···」
「律?」
「決めたんだ瑞希のためにも生きてやるってなのに···」
「まあ入れよ汚ねぇけど」
俺はベッドに座った
修司が缶ビールを突き出してきたのでトンと缶をあわせた
「悪いな甘えてばかりで」
「んで女とケンカしたんか」
「ああ
いきなり起こされて昔の男の名前だしてきてムカつくだろ普通」
「まあ穏和なおまえが珍しいわな
ほれつまみ」
差し出されたイカをくわえながら言う
「頭にきたからヤタガラスのことぜんぶ話してやった」
「マジ?律と瑞希の関係も?」
俺は首を振ってタバコを取り出した
「それはまだ···」
「言えねぇよな
瑞希がおまえの身代わりになったなんて」
俺は言葉をビールで流し込んだ
「まあな
ヤタガラスの羽根は呪いの刻印」
「だもんな
あっ律これから女くるんだけど平気?」
「別に」
俺はビールを開けてタバコを消すとそのまま眠りについた
夢の中で麻衣が呼んでる声がした
揺すり起こされる感覚と強烈な香水の匂い
部屋に漂う煙の匂い
俺は珍しく慌てて飛び起きた
「律、楽しいぜ?
おまえも楽しめよ」
修司の声が耳障りで俺は慌てて外に飛び出した
激しくむせかえってると声がする
「大丈夫かよ?
らしくねぇぜ律」
「悪い···」
「おまえ変わったんじゃね?
やっぱいるべき世界が違うんだな」
「···」
「ムリすんなよ帰れよおまえが居なきゃならねぇ場所に」
俺は逃げるようにバイクをはしらせてけっきょく麻衣のマンションに転がり込んでいた
「ちょっと律、大丈夫?
お水でいい?」
俺は麻衣をふりきってトイレに駆け込んだ
「律」
それからはあんまり記憶がない
気づいたのは白い部屋
まだ眩暈がしやがる
なかなか焦点があわなくてめんどくさくて目を閉じた
「律」
その声にガバッと体を起こした
「麻衣」
「びっくりした」
「あぁ悪い」
「大丈夫?」
「なんとかな
おまえここにいちゃマズいんだろ」
「もういいよ、朝はごめんね
私もね色々考えて休んじゃった
律もうどこにも行かないでね」
俺は静かに頷いた
「悪かった」
「私ね前に進もうと思うの
それだけ
だからゆっくり休んで」
「意味わかんね」
「意味わかんないのはこっちよ」
ケンカしに来たわけじゃない
そんなことわかっていた
でも···
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