この感情を僕たちはまだ愛とは知らない
そいつは私の財布をひったくるなり走って逃げた
でも去り際に犯罪者って言ってたけどなんのことだかわからない
私はスマホをなんとか取り出して警察に電話をかけた
気づいたときにはまったく別な場所にいた
「ったく気づいたか?通り魔だってよ」
「違う」
麻衣の異常な怯え方に俺は怪訝な顔をする
「なにが?」
「犯罪者って言ってたの」
「はあ?」
「私のこと」
「気のせいだろ」
「律、もう大丈夫だから帰って」
「帰るなら一緒だ」
「えっ···」
「ここ処置室だぜ?
幸いにも軽傷、深くは刺さってない
目が覚めたら看護士呼んでくれって
終わったら帰れるけどその前にあのおっさんが用事だって」
あのおっさん?刑事さんのこと
刑事さんがこちらに一礼して歩いてくる
「どうも」
「君が入江田さん?」
「はい」
「彼氏さんから状況は聞いた
まあ通り魔として扱っていいと思うが」
「いえ違います
だって私のこと犯罪者って」
「あなたが犯罪者?
冗談もほどほどにしたらどうだい?」
「だって確かに聞いたんです」
「犯人と面識は?」
「ありません」
「また進展がありしだい連絡する
連絡先をきいていいかな?」
「はい」
私は携帯の電話番号を告げた
「彼氏さんのも聞いていいかな」
俺は刑事さんに電話番号を言いながらちらりと麻衣を見る
思い出すわけないよな
俺は2人を残して修司に連絡した
「もしもし律?」
「おまえだろ犯人」
「なんのことだよ?」
「刺されたんだよあいつ
財布も盗られてる」
「俺なわけないだろ」
「だな悪かった」
「案外おまえなんじゃね?」
「刺すならあんなヘマしねぇよ確実に殺ってる」
「だよなぁ」
「しかも犯罪者って言ったらしい」
「案外ヤタガラス関連だったりして
おまえ他にヤタガラスの被害者知らないのか?」
修司に言われても心当たりなんてなかった
しばらく考え込んでやっと思い出した
「被害者か知らないけど言い寄ってきた女と最低な別れ方したことあったっけな」
「律はなんでそんな女に恨まれんだよ」
修司のため息に俺は答えた
「かっこいいからだろ」
律の自意識過剰はいつからだっけ
律とダチになったときはすでに始まってた気もする
「つーかそいつに連絡すりゃいいだろ」
「だな」
俺はいったん通話をきり次にそいつに連絡した
「もしもし」
気の弱そうな声
「亜美」
「律?律だあ」
パアッと明るい声がする
「しばらく」
「あのね今日ね楽しいことがあった」
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