この感情を僕たちはまだ愛とは知らない
律が優しく抱きしめて私にキスをしてきた
「大好き」
「俺もだよ」
幸せになりたい
私はずっと律に抱きついていた
しばらくしてノックの音がして慌てて離れる
看護士さんが点滴を交換しながらちらっと私を見た
「お母さん?」
そうだよねそう見えて当たり前だよね
律は何も言わない
代わりに笑いを堪えてるように見えた
その後に傷の消毒とガーゼ交換が行われていく
「っ···」
律が顔を歪めるのも当然でまだべったりと血がついていた
「動いたでしょ?
傷治らないわよそんなんじゃ」
一応うなずいてる律
処置が終わると病院ならではの早めの食事が配られ始めていた
いつもなら食欲旺盛な律なのに箸をつけようとしない
「食べないの?」
「あんま腹減ってないから」
「少しでも食べた方がいいよ」
私はお粥を掬って律の口に運んだ
「サンキュ」
「おいしい?」
「ああ」
私は野菜の煮物と魚の味噌焼きも律の口に運んだ
食事を半分くらい食べたところで律は私を引き寄せた
「おいで」
律のベッドの中に引き寄せられ向き合う形になる
律の視線は私のあらゆるところを見ていた
「なに?」
「別に」
「じゃあそんなにみつめないでよ」
「いいじゃんかわいいんだから」
律は笑いながらそういうとぎゅっと私を抱きしめた
「ちょっと」
「いまさら拒んだって無駄だよ」
律はまた意地悪く笑った
こういう時の律は悪戯をしようとする小さい子のようだ
律に抱かれながら何度となくキスをする
そのまま律のペースに陥りけっきょく流されてしまった
「律···」
「ん?なにまだしたりないの?」
「違う」
「なに?」
私は律の胸に顔を埋めた
「おちつくやっぱり律の傍が」
「だろうね
ってそんなにゆっくりしてたら看護士さんにバレちゃうよ?」
「えっ?」
「だって食器そのままだし
もうそろそろ片づけに来るっしょ」
「···えっウソ」
私は慌てて服を直してベッドから飛び降りた
「そういうとこかわいいよね麻衣さんは」
「律のバカ」
そんなことをしていたら案の定、看護士さんが食器を下げに来た
「律くんのお母さん?」
律はもうムリと言わんばかりに笑いを堪えている
「あっいえ」
それもこれも律が幼すぎるからに違いない
「姉なんです」
「律くんは24でしょ?
ずいぶん年が離れてるのね」
「腹違いだから」
どうしてポンポン言葉が出てくるんだろう
「そうまあゆっくりね」
「ありがと」
にっこりと笑うと確かにモテるかも
< 37 / 38 >

この作品をシェア

pagetop