この感情を僕たちはまだ愛とは知らない
「意外そうだな」
「意外にきまってるでしょ瑞希はもっと強引なのかと思ってた」
「強引ね、俺はおまえが嫌がることはしない
助けてくれたからな」
「私だって好きで助けたわけじゃないんだから」
「じゃあ興味本位?」
「あんなとこに倒れてたからびっくりしただけです
瑞希、バイクなんて乗れたんだ」
「まあな」
「ヤタガラスってなに?ちゃんと答えて」
「ヤタガラスね」
「瑞希ってば」
私はしつこいぐらいに訊いた
だってそれが瑞希を知る手掛かりになるんだから
でも瑞希はキッチンのほうに行ってしまう
またタバコを吸っているのだろうか
でも違った
瑞希は手慣れた手つきで何かを作っていた
できあがったのはお店顔負けの綺麗なオムライス
いつもは瑞希が占領してるソファーに並んで座り食べ始めた
「おいしい」
「そう?」
「えっ···」
ふっと瑞希が笑ったのだ
「妹に似てる」
「はい?妹」
「何年たつかな」
「会わなきゃ」
「両親は俺らがとにかく邪魔だった
だから俺も悠香も施設に預けられた」
「ゆうか···」
「妹はすぐに新しい家が決まった
俺は最後までもらいてがなかった
そんなときだ金持ちの親父が来たのは
それがヤタガラスのボスってわけ
俺はただ手伝ってただけだ」
「···」
「なんで泣いてんだよ?
おまえに関係ないだろ」
「関係ないなんてことないでしょ」
急に横から抱きしめられてどきりとする
「今はこれで我慢してやる」
「瑞希」
「なんだよ?」
「ごちそうさまおいしかった」
私はオムライスのお礼を言ってお風呂場に向かった
幸せってなんだろう
シャワーを浴びながらふと思う
私はゆきさんを忘れることなんてできない
でも気持ちがぐらついてきてる
シャワーを浴びて着替えを済ませてリビングに戻ってみると瑞希が写真を眺めていた
「かっこいいでしょゆきさん」
瑞希は眉根ひとつ動かさずに言う
「別に
俺の方がかっこいい」
瑞希の自意識過剰はどこからくるのだろう
「そうかもしれないけど」
「こんな奴にまだこだわってんのか?」
こんな奴って
「ちょっと瑞希」
瑞希はソファーにごろりと横になってしまう
私は瑞希の後を追いかけて額に手をおいて慌てて濡れタオルを取りに戻る
「水くれないか?」
瑞希にグラスを手渡した
「大丈夫?」
「まあな」
熱のせいか苦しそうだ
瑞希は水を飲み干すと目を閉じた
「瑞希あのね···なんでもない、おやすみ」
私は自分の部屋に行った
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