恋する歌舞伎
今日はお里にとって新婚初夜。

おぼこなお里だが、今日こそはと勇気を出して、遠回しながら弥助を寝所へと誘う。

それでも動かない弥助なので、お里はいじけてひとり寂しく床につく。

弥助は衝立の向こう側で

「実は僕には妻子がいる。だから床を一緒にするのは許して欲しい」

と告白!

しかしお里は寝てしまったのか、反応がないので眠りにつくことにする。

と、そこへ高貴な身なりの美しい女性が、子供を連れて一夜の宿を求めこの家を訪ねてくる。

弥助が迎えると、立っていたのは、妻である若葉の内侍(ないし)と子・六代君(ろくだいのきみ)だった!

弥助と名乗るこの男の正体は、何を隠そう平清盛の孫・平維盛(たいらのこれもり)。

平家である維盛は、源氏方に追われる身であり、維盛の父に恩がある弥左衛門にかくまわれていたのだ。

維盛親子三人は、思いがけない再会と互いの無事にむせび泣く。

何も知らなかったお里は、衝立の向こうで一部始終を聞かされ、自分の恋心は所詮届くはずがなく、夢物語であったのだと気づかされる。

潔く維盛のことをあきらめたお里は危険が及ばないよう、維盛たちを父の隠居所へと逃すのだった。

しかし折り悪く、兄の権太もこの一件をすべて見聞きしていた!

妹が制するも利かず
「突き出して金にしよう」
と、先ほど隠したすし桶を抱えて駆け出していく。

しかしこのすし桶には金ではなく、人の首が入っているのだ。


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