恋する歌舞伎
実は、この女性は吉岡一味斎(よしおかいちみさい)の娘・お園。

一味斎とは六助の剣術の師匠であり、彼は六助の人柄と能力を見込んで、娘の結婚相手にしようと決めていた。

つまり、六助とお園は顔を合わせたことはないが、許嫁という間柄だったのだ。

突然の思いがけない事実に戸惑いながら、まんざらでもない二人。

それはそうと、六助はお園に一味斎の安否を尋ねると
「父は同じ家中の者に殺害され、父親の敵を打とうとした妹も返り討ちにされました」
と語る。

悲しみにくれる二人に、奥の一間から声をかけたのはお幸という、最前、六助に一夜の宿を求めこの家に通されていた老女。

これまた偶然にも、このお幸は一味斎の妻、つまりお園の母親であったのだ。

お幸は六助に夫の形見の刀を与え、お園と祝言させるのだった。

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