恋する歌舞伎
田舎暮らしの商人・佐野次郎左衛門(さのじろざえもん)はあばた顔で一見さえないが、金離れがよく、人柄の良い男。

地味だった彼の生活は、仕事のついでにふらりと寄った江戸で一変してしまう。

発端となった人物は絶世の美女と名高い花魁・八ッ橋。その道中に遭遇し、微笑みかけられたことがきっかけにこの花魁の虜になってしまったのだ。

廓はお金があれば疑似恋愛が出来る場所。通い詰める次郎左衛門だが、八ッ橋といえば、実は栄之丞という恋人(しかもヒモ)もおり、次郎左衛門など一顧客にすぎず恋愛感情は一切ない。


ところが釣鐘権八という人物によって、このいびつな関係が壊れてゆく。

権八とはその昔八ッ橋の父親に仕えていたが、八ッ橋の親が亡くなったため彼女の保証人のような関係になった男。

その立場を利用して、彼女の勤める店に常々金をせびりにきていたのだ。


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