恋する歌舞伎
保名は平静を装い、いつものように妻に接する。そこで「君の両親が訪ねてくるらしい。

子供もやっと見せてあげられるし、さぞ嬉しいだろう」とかまをかけるが、葛の葉は焦る様子もなく、楽しみだと喜ぶ。保名はどちらが本物なのだろうと訝しがり、うたた寝をしたふりをして様子を探ることにする。


しばらくして葛の葉は、とうとう時がきてしまった、と寂しそうな表情を浮かべる。この葛の葉姫そっくりの女の正体、実は森で保名に命を助けられた白狐なのだった!


本物の葛の葉姫が現れたからには自分はここには居られない。

自分が狐であること、助けてもらったお礼にと、保名が恋慕っていた葛の葉姫の姿に化けていたことを話し出す。そして我が子を抱きかかえながら、別れの歌(※)を家の障子に残すのだった。


※「恋しくは たづね来てみよ 和泉なる 信田の森の うらみ葛の葉」という一首。この歌を、口に筆を加えたり、子どもを右手で抱えながら左手で裏から文字を書いたりするのが狐・葛の葉の霊力を感じさせ、見せ場となっている。




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