恋する歌舞伎
旗本・美濃部伊織(いおり)と妻・るんは生まれたばかりの子どもと三人で仲睦まじく暮らしていた。

この夫婦は人も羨む鴛鴦夫婦だがある日、るんの弟・久右衛門(きゅうえもん)が、友人との些細な喧嘩が発端で事件を起こしてしまう。

結果、義兄である伊織が責任をとって地方での勤めを任されることになり、伊織とるんは離れて暮らすことに・・・。

今日は旅立ちの前日。

姉夫婦に改めて謝罪と礼を言いにやってきた久右衛門だが、相変わらずの仲良しぶりを見せつけられる。

るんは伊織の「鼻を触ってしまう癖」を、子どもをあやすように咎めたり、伊織は蚊に刺されたるんの頬につばをつけてなだめたりと、弟の前であろうとお構いなし。

久右衛門は空気を読んで早々に立ち去る。

二人きりになり、祝言のときに植えた桜の木をしみじみと眺める伊織とるん。

「一年交替の勤めであるから来年は一緒に桜を楽しめるだろう」
と気丈にふるまうが、内心は寂しくてたまらない。

来年の花の盛りにはきっと帰ってくるからと、伊織はるん手製の守り袋を胸に旅立つのであった。
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