恋する歌舞伎
ここは京都の少し寂しい場所にある土佐将監(とさのしょうげん)の家。

将監は宮廷絵師だったが、訳あって妻と弟子の修理之助(しゅりのすけ)とわび住まいをしている。

そんな所へある日、大勢の百姓たちが押し寄せてくる。なんでも山に“虎”が出て、この竹薮に追い込んだというのだ。

修理之助は「日本に虎などいるものか」と訝しがるが、茂みから本当に虎が現れる。

騒ぎを聞きつけて出できた将監は「この虎はある有名な画家が描いたもので、その出来があまりにも素晴らしいため絵から抜け出てきたのだ。

その証拠に、近くに虎の足跡がないだろう」という。

その話を聞いた修理之助は、ならば自分の絵の力でその虎を封じ込めてみせますと宣言し、見事虎をかき消すことに成功したのだった。

「絵の道の悟りを開いたな」と、将監は修理之助を認め、「土佐」の苗字と、立派な筆を授けるのだった。
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