人魚がいた夏-第1部-
ずっと握り締めていたケータイに情の無いような温度を感じた。
涙が溢れてばかりの瞳は、涙腺を締めることを知らない。
―私、強くなるって決めたでしょ?
―しっかりしろ、波音。
―強い女は、泣かない。
涙をぬぐって、鏡を見る。
いつも泣いているせいでなれてしまったのか、そんなに目は赤くない。
「よし。波音っ。」
自分で自分を励まして部屋を出る。
向かった先は隣の部屋。
―陸の部屋。