あなたはわるい人ですか?
「うん、いいよ。ひたひたと男の二面性追っていくかんじ、ぞくぞくするね。なんだー。こういうの書けるんじゃんかー」
「それは、良かったです」
「これ、もう少し書き進めてみない?原稿百枚くらいで構成組んでさ。次回作これで考えてみようよ」
「……はい」
褒められているはずなのに嬉しくない。自分が書いたものなのに、嬉しくない。ひとつ壁を乗り越えたはずなのに、足をひっかけている気分だ。
物語のなかの悪い久瀬さんは、私をどこに導くだろう。
あの日から久瀬さんのことばかり考えている。親切にしてくれた久瀬さんと、物語のなかのどこまでも残虐な久瀬さん。夢の中にまで出てきて私を翻弄した。ある夜は愛しげに触れてきて、ある夜はその本性に気付いた私を殺す。その全部が私の作り上げた妄想。
嬉しい。こわい。気になる。触れたくない。優しい。逃げたくなる。会いたい。もどかしい。すき。
……すき?
一度会っただけでそれから連絡もとっていない。それっきりの人なのに。