あなたはわるい人ですか?
男性はシャツにジーンズ、完璧なオフスタイル。あっさりとした顔立ち。若干、筋肉質。普段はスーツで働いているのだろうか。ちらりと横顔を覗くと、これから始まる映画に何も感じていないという顔で、まっすぐスクリーンを見つめ、飲み物を飲んでいる。
この人は、なぜここに来たんだろう。こういうバイオレンスものが好きなんだろうか。とても優しそうな顔をしているのに。虫も殺さないような顔をして残虐な映画を見つめるのか。一人で。
人間観察をしながら気を紛らわした。照明が落ちて、予告が始まっても、視線は向けずに意識を隣に向けて。今、どんな気持ちで映画が始まるのを待っているんだろう。
一瞬の静寂をはさんで、本編が始まる。
「っ……」
映画は冒頭から流血シーンだった。誰が主人公かもわからぬ間に、次々と人が殴り殺されていく。肉を叩きつける鈍い音がするたびに、自分のどこだかわからない部分が痛い。開始わずか五秒。顔をあげることすらできない。
無理だ。
フィクションとわかっていて直視できない。耳から入ってくる音声だけで像を作り上げてしまう。嫌な汗が止まらない。もう無理だ。情けない。無理だ。指先すら上手に動かせないくせに。それなのに描こうなんて。ものにしようなんて。向いていないにもほどがある。
「大丈夫ですか?」
この人は、なぜここに来たんだろう。こういうバイオレンスものが好きなんだろうか。とても優しそうな顔をしているのに。虫も殺さないような顔をして残虐な映画を見つめるのか。一人で。
人間観察をしながら気を紛らわした。照明が落ちて、予告が始まっても、視線は向けずに意識を隣に向けて。今、どんな気持ちで映画が始まるのを待っているんだろう。
一瞬の静寂をはさんで、本編が始まる。
「っ……」
映画は冒頭から流血シーンだった。誰が主人公かもわからぬ間に、次々と人が殴り殺されていく。肉を叩きつける鈍い音がするたびに、自分のどこだかわからない部分が痛い。開始わずか五秒。顔をあげることすらできない。
無理だ。
フィクションとわかっていて直視できない。耳から入ってくる音声だけで像を作り上げてしまう。嫌な汗が止まらない。もう無理だ。情けない。無理だ。指先すら上手に動かせないくせに。それなのに描こうなんて。ものにしようなんて。向いていないにもほどがある。
「大丈夫ですか?」