あなたはわるい人ですか?
「……え」



声をかけられた。隣の席の男性だ。スクリーンが視界に入らないよう、うつむきがちに隣を見ると少し驚いた顔でこちらを見ている。



「体調悪くなりましたか?外に出ますか?」



突然のことに戸惑ってうまく返事ができずにいると、彼は一瞬だけ考えて私の鞄を持った。もう片方の手で力強く、丁寧に私の手を引いて外へと連れだす。

殴りつける音も、誰かの怒号も遠くなる。遠くなるたび、それは自分とはまったく関係のない世界での出来事だと心が理解して、ほっとした。その代わりに私の世界は、このてのひら。力強く引いてくれるこの手だけが、すべてになっていく。



チケットを切ってもらったゲートを出る。再入場ってできるんだろうか。私はしないけど、この人はよかったんだろうか。キャラメルポップコーンの香りがする売店の前を抜けて、パンフレットラック前のソファに座らされる。



「……」

「……」



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