あなたはわるい人ですか?
「そんなことあるわけないでしょ」
後日、昼食時に同僚の柏原に書きかけの小説を見せると、ばっさりと斬られた。
「いや、まぁないんだけど……」
同期入社の柏原は容赦がない。だからこそ読み手としては最適だった。本音百パーセントの感想は私に「もっと素敵な物語を」と燃えさせたし、柏原が良かったと認めたときは本当に良いと思ってくれたんだなと嬉しかった。
私の渾身の久瀬さん小説の、柏原の評価は「クソ」。
「親切にしてもらっといて〝もしかしてこの人悪い人?〟なんて失礼極まりないわ」
「でもそういう想像をすることがさ、小説のヒントになるかなって」
「そうなのかもしれないけどさ。高坂の良さってもっとこう……。少なくともこういうのじゃないと思う」
柏原のそんな感想は初めてだった。私は「そっかぁ」と曖昧に返事することしかできなかった。
迷いはしたものの、その書きかけの原稿を編集部に持って行ってみた。小山さんは髭に一切触れず原稿を読んでくれた。そして読み終えて一言。
「これ、いいじゃない、高坂さん」
「……ほんとですか?」