ドクター

トントン




「実加ちゃん、入るよ。」




返事はないが、部屋に入っていく青木先生。
実加は寝ていたのか、目を開けると、目をこすりながら姿勢を整え、青木先生に挨拶をした。
青木先生は実加のベッドの隣に置かれた椅子に腰掛け、実加に体を向ける。



「聞いたよ、実加ちゃん。
病院、抜け出したって?」




実加はコクリとうなづいた。




「体はどう?
抜け出したせいで胃が痛むかな?」



今度はうつむいたままで反応がない。
青木先生は斉藤先生からは聞いているが、看護師の工藤については触れないでいる。




黙っていた実加が一度青木先生を見ると、何か言いたそうにする。



「何だろう?何でも言ってごらん。」




実加は少しずつ口を開いた。




「……あ、の……斉藤先生は私のこと、邪魔者に思っているんでしょうか。」




「え?」



青木先生は、思ってもみないことを聞かれ、驚いているが、もしかしたら……。
と、大体の予想がついたようだ。




「そんなことはないと思うよ。
斉藤先生と君がこの病院に来て、数日しか経っていないけど、斉藤先生は君のことを一番に気にかけている。
それは、君のことを大切に想ってるからだと思うよ。



斉藤先生には今まで家族がいなかったと聞いている。
だから、君が現れて、相当うれしいと思う。
これからは一人じゃないんだって、思ってるんじゃないかな。
邪魔だなんて、絶対に思ってない。」




実加は顔を上げて、青木先生を見た。
その実加はどこか安堵の表情を浮かべていた。




「他に聞きたいことは?」



「ありません。」



「じゃあ、今晩から、おかゆをはじめるから、少しずつでいいから食べるんだよ。
お腹が痛むようなら、すぐにナースコールするんだよ。」





「はい。」




実加はいつのまにか青木先生にも心を開いていた。
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