ドクター
「実加ちゃんの様子はどうじゃ?」
久しぶりにクリニックに帰ってきた斉藤先生に院長が尋ねる。
「何も変わらず。
そのおかげで体は悪くなる一方。
肝機能は低下して、喘鳴も聞こえてる。」
「発作は?」
「今のところ把握していないけど、もしかしたら黙ってるだけかもしれない。
気持ちが沈んで、体力も落ちて。
はぁ、俺がいけなかったのかもなぁ。」
ソファにのけ反りながら頭をかかえる斉藤先生。
その隣で院長も座っている。
「いや、そんなことはない。
本気であの子を叱ってやれるのは、お前しかおらんじゃろ。」
「初めて人に手を挙げた。
今でもこの右手に残る感触を思い出す。」
右手を見つめながら、斉藤先生は自分のしたことが正しかったのか考える。
妹と思って接していても、何だかそう想えない。
実加のこと、妹とは想えない・・・。
こんなことを誰かにいえば、軽蔑されるだろう。
あいつもそう言ってたし。
とトラブルをして辞めて行った看護師に言われたことを思い出す。