クロ * Full picture of the plan * Ⅳ
ぼやける視界が真っ白な床に変わり、自分が今、どういう状況なのかもすぐには判別出来なかった。
周りの声など一切聴こえなかった中、ポタッと下に透明な雫が一粒落ちた音だけが聴こえた。
…あぁ、俺、泣いてるのか。
そう、理解したと同時に、一気に周りの声が聞こえるようになった。
円「京、立てるか?」
僅かに顔を上げると、右の耳からいつもと変わらない円の声がし、小さく頷く。
引っ張られるようにして立ち上がると、俺は地面にへたりこむ寸前で円に支えられたんだと気づいた。
ハッとして円の顔を見ると、不安でいっぱいの表情をしていた。
…いや、円だけじゃない。
目だけ泳がせ、この場にいる全員の表情を見るが、不安と恐怖が滲み出ている。
今、この状況で泣くのは俺じゃない。
泣きたいのは、不安なのは、俺だけじゃないんだ。
そう思ったら、痛かった胸も、苦しかった呼吸も、スーッと治った気がした。
志「…京。葵絆がどうなったか、話せるか」
ゆらりと揺れる瞳で、円に支えられて椅子に座った俺の目をじーっと見つめてくる。
今、この中で葵絆の状況がわかっているのは俺しかいない。
震える声を必死で抑えようと、言葉を振り絞った。
京「……い、しき、ふめー、、で…とちゅ、……し、ぱいてーしに…っ、それで………その、まま…っ…、」
喋りながらぎゅっと服の上から心臓を掴んだ。
もしかしたら、このまま葵絆は死んでしまうのではないか。
目の前で心臓の止まった葵絆を見たら、異常のない俺まで胸が痛くなった気がした。
辰巳「…根拠もなく『大丈夫』だとは言わない主義だが、葵絆なら"大丈夫"だ。
あいつを"信じろ"」
俯く俺の肩に両手を置き、真っ直ぐ目を見てそう言われた。
根拠なんてものはなく、むしろ危ないところを目の当たりにしている俺が『大丈夫』なんて言葉を信じれるわけが無い。
……しかし、何故かタツさんの言葉は、誰よりも説得力があり、素直にそうだと思えた。
それと同時に一気に身体に掛かっていた重りが外れた気がした。
そのことによってやっと感覚が戻ったのか、途端に左足にズキズキとする激痛を感じた。
慌てて左脹脛を見ると、初めの時より酷くなっていた。
少し掠っただけのはずが、ぱっくりと割れ、血が流れ出ている。