クロ * Full picture of the plan * Ⅳ
ーーコンコンッ カラカラッ
一応ノックしたが返事も待たずに扉を開けた。
車椅子を押し、扉を止め、と色々と戸惑ったが、なんとか病室の中に入ることが出来た。
志「……京、?」
車椅子を進めると、ベッドの横にうつ伏せになっていた志が顔を上げた。
俺が寝ている間に日付が変わったのか、外には眩しい太陽が昇っている。
部屋の電気はついていなかったが、窓から射し込む太陽の光で志の顔がうっすら見えた。
その顔色はとてもじゃないがいいとは言えず、むしろ青白く血の気がない。
元々あまり血の量が多くない志にとって、献血をすると危ない。
それを医師も見かねてか、志の手には俺と同じように点滴が刺さっている。
恐らくその中身は増血剤、つまり血を増やす薬だろうというのは予想がついた。
志「足…大丈夫なのか?」
京「‥‥俺より志の方が、」
言いかけて、途中でやめた。
本当なら、お前の方が体調辛いくせに、人の心配なんてしてる暇あんなら休んでろ、と言いたかった。
けど、葵絆の状態を聞いた今となってはそんなこと言えるはずがない。
何も言えることがなくて、志から目線を外し、ベッドで横たわる葵絆に移した。
酸素マスクもなく、ただ普通に寝ている。
ベッドのすぐ横にある、ヘッドサイドモニタの心電図も特に異常はない。
点滴も数本刺さっているが、それも普通のものだ。
…何も、異常なことはない。
本当に、ただ、眠っているようにしか見えない。
いつものように揺らして起こせば、眠そうな目をこすって、大きなあくびをして、普通に起き上がりそうだ。
こんなんで昏睡状態だなんて、、全く思えない。
そんな俺の心を読み取ったかのように、目を瞑って独り言のように志は言った。
志「こんなんで、昏睡状態だなんて、、信じられないよなぁ。いつものように起きそうな寝顔だし、
けど、医者に言われたよ。
葵絆は植物状態に近く、脳に外傷もないのに目覚める確率は10%もないって」
……確率は、10%も…ない、。
心の中で復唱してみても、やはり現実味がない。
志「…目覚めたら、"キセキ"だ。ってさ
もし、"キセキ"が起こっても、障害が残る可能性が高い。って、
眠っている期間が長ければ長いほど、"キセキ"が起こる可能性は下がるし、障害が残る可能性は高くなる。
原因不明で、治療法もない。
ほんと、どうしろっつーんだよな?」
最後は俺に問いかけるように目を開けた志の表情は、今にも泣きそうな顔をしていた。
多分、俺も同じような顔をしているんだと思う。
だって、まさか、ドラマみたいなことが現実で、しかも俺の身近で起こるなんて、想像もしてなかった。
昏睡状態、障害、確率10%以下、
現実味はなく、むしろ夢みたいな出来事。
…いや、夢であって欲しい出来事だ。
現実に、俺の身近に、起こって欲しくなかった。
こんなの、一生味わいたく無かったよ……葵絆。