怖い短編集
僕が明日香にそう言うと、
明日香は何も言わずに下を向いた。
明日香の顔からは、
表情が消え
明日香が今、何を考えているかが
僕にはわからなかった。
明日香が口にした
"その人"って
いったい誰だろう?
僕はそのことが知りたかったが、
口をつぐんでしまった明日香から
そのことが聞けるような気はしなかった。
明日香は僕に
何かを隠している。
明日香の心の奥の方には、
まだ僕の知らない
闇があるのだろうか?
だとしたら、
明日香っていう子は
いったい、いつも
どんな暮らしをしているのか?
そもそも僕は、
一番の友だちだと思っている明日香のことを
あまりよく知らないのではないだろうか?
せめて、あと二時間……。
僕はその日、
友だちの明日香に嫌われたくなくて、
家に帰るのを遅らせた。
僕は、
時間ばかりが気になったが
何もしゃべらずに
静かにブランコを揺らしていた。
僕は、
一番大切な友だち、
明日香を失いたくなかったから……。