怖い短編集
辺りが真っ暗になり、
月明かりだけが
公園を照らし始めたとき、
僕はようやく
家に帰ることを決めた。
「明日香ちゃん、
僕、もう家に帰るね。
もう遅い時間だから」
僕は明日香に
話しかけたが、
明日香はブランコに座って下を向いたまま
何もしゃべらなかった。
僕は、
そんな明日香の顔を覗き込んで、
いつものように
明日香に言った。
「明日香ちゃん、
僕たち、また明日も、
この公園のブランコで会おうね」
僕がそう言うと
明日香がやっと
静かに顔を上げた。
「徹くん、
私と徹くんが会うのは
今日で最後よ」
僕は、
明日香の言っていることが
理解できなかった。
「明日香ちゃん、
何言ってるの?
僕たち、
大切な友だちなのに……」
僕がそう言うと、
明日香はさみしげに笑った。
「そうよ、徹くん。
私たちは大切な友だち。
だから私は、
今日まであなたを守ろうと必死だった。
あなたには、私のようになって欲しくはなかったから……」
「明日香ちゃん、
何を言ってるの?
僕にはさっぱり、
わからないよ」
「徹くん、
私の言っている言葉の意味は、
すぐに徹くんにもわかるわ。
徹くん、
今まで楽しかった。
さよなら……」
明日香がそう言うと、
今までブランコに座っていた
明日香の姿が
すっとまるで煙のように
消えてしまった。
僕は、
今、目にしたことが
信じられなかった。
そして僕は、
急に恐ろしさに包まれて、
ブランコから立ち上がり、膝をカタカタと震わせていた。
明日香がいなくなったそのあとも、
明日香が座っていたブランコは、
静かにそっと揺れていた。