怖い短編集
僕が、
恐ろしさに包まれながら、
必死の思いで走って
家に着くと
僕の家の周りには、
人だかりができていて
近くには、パトカーと救急車が止まっていた。
何かが起きた。
僕は、
家の近くで立ち止まり、
自分の家と
周りの大人たちを
茫然と見ていた。
僕の耳に
大人たちの会話が入ってきた。
「この家の奥さん、
旦那さんを刺したんですって。
それでそのあとに
自分も首を切って
自殺したらしくて……」
〈 そんなバカな! 〉
僕は心の中で叫んでいた。
〈 僕のお父さんとお母さんが、
死んだなんて…… 〉
これは夢だろうかと
僕は思ったが、
このあまりにもリアルな情景が
夢であるとは思えなかった。
そして僕は、
いつもと同じ時間に
僕が家に帰ってきていたならば、
僕も母に
殺されていたのだろうかと思った。
〈 せめてあと二時間…… 〉
そう言った明日香の言葉が、
僕の命を救っていた。
両親の死後、
僕は、児童養護施設に引き取られた。
明日香からもらった
きれいな貝殻は、
今でも僕の大切な宝物だ。
僕は、
今でもときどき、
明日香と会っていた
あの公園に行っていた。
そうすれば、もう一度、
明日香に会えるような気がして……。
僕は、
明日香のいない公園で
一人、ブランコに座り
明日香と毎日話していた日々を
懐かしく思った。
僕は、
いつも明日香が座っていた
ブランコを見つめながら、
明日香が毎日、
別れ際に僕に言った言葉を
思い出していた。
「徹くん、
また明日も、
この公園のブランコで会おうね」
明日香に会いたい。
そして、お礼を言いたい。
僕はそんなことを考えながら、
静かにそっとブランコを揺らした。