怖い短編集
その日、
僕はブランコを揺らしながら、
想像してみた。
もしも僕が、
別の家の子供だったなら……。
優しいお父さんとお母さんがいて、
二人は仲がよくて、
僕は二人から
愛されていて……。
僕はある日、
お父さんからこう言われる。
「徹、学校で先生に誉められたんだって。
偉いじゃないか徹」
僕はある日、
お母さんにこう言われる。
「徹が家のことを手伝ってくれるから、
お母さんは
とっても助かるわ」
空想の世界に浸っているとき、
僕は幸せだった。
でも、
日が暮れてしまえば、
僕のそんな幸せな時間も
終わりを告げてしまう。
僕はもう、
帰りたくないあの家に
帰らなくてはならなかった。