怖い短編集
僕は家に帰ると
誰にも気づかれることのない
空気になりたいと思った。
父と母の怒鳴り声が
部屋の中に響き、
僕は二人の争いに巻き込まれないように、
そっと息をひそめる。
僕は何も聞きたくない。
僕は何も見たくない。
僕は心がないマネキンのように、
何も感じない存在になりたかった。
だって、子どもの僕にだって
はっきりとわかっていた。
父と母の仲は、
もう修復することが
できないって……。
この家の中には、
憎しみだけが
満ちているって……。