怖い短編集

僕は家に帰ると
誰にも気づかれることのない
空気になりたいと思った。




父と母の怒鳴り声が
部屋の中に響き、
僕は二人の争いに巻き込まれないように、
そっと息をひそめる。


僕は何も聞きたくない。

僕は何も見たくない。

僕は心がないマネキンのように、
何も感じない存在になりたかった。




だって、子どもの僕にだって
はっきりとわかっていた。




父と母の仲は、
もう修復することが
できないって……。




この家の中には、
憎しみだけが
満ちているって……。
< 69 / 218 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop