怖い短編集
父の母への暴力は、
日増しにひどくなっていった。
母は殴られる度に悲鳴を上げ、
父に恨みの言葉を吐き、
殺意のこもった目を
父に向けていた。
母がその言葉を
実際に口にしていなくても、
母の顔を見ていれば、
母の言いたいことが
僕にはわかってしまった。
〈 いつかきっと、殺してやる 〉
僕は部屋の隅で、
一方的に殴られている母の
声にならない叫び声を聞いていた。
〈 徹くんのお母さん、
きっと今の徹くんと同じ気持ちなの 〉
僕は明日香が言った言葉を思い出していた。
あの横暴な母も、
父の前では結局、
何の抵抗もできない
弱者でしかないのだろうか?
僕は毎日、
家の中で悪夢を見続けていた。
そして本当の事件は、
ある晴れた日の夕方に起きた。