怖い短編集
父はそう怒鳴り散らすと、
勢いよくドアを開け、
部屋から出て言った。
部屋に残された母は、
下を向いて
泣いていた。
母の右の手のひらから流れる赤い血が、
母の服を赤く染めていた。
そして母は、
泣きながら顔を上げ、
母の泣きはらした赤い目が、
部屋の隅にいる僕に向けられた。
僕は、母の憎しみに満ちた顔を見て、
ゾッとして
背筋が冷たいものを感じた。
母は正気ではない目つきで、
僕を見ると
低い声で僕にこう言った。
「あんた、ずっとそこで見てたんだろ。
私が殴られるのを
おもしろがって見てたんだろ」
僕は、いつもとは違う母の様子を
肌で感じ取り、
後退りした。
「あんた、私を…馬鹿にしてるだろ。
かわいそうな女だと思っているだろ。
生きてる価値がないと思っているだろ」
母はそう言って、
ゆっくりと立ち上がった。
〈 逃げなくちゃ 〉
僕はそう思い、
慌て部屋から飛び出した。
僕は、
母と二人きりで
同じ部屋にいるのが
怖かった。