怖い短編集

「徹くん、
これから話すことは、
私がよく知っている子の話なの。


その子の両親も
とっても仲が悪くて
その子の家の中には
憎しみが溢れていたの。


その子も両親から
ひどい虐待を受付ていたわ。


いつも体中に
アザを作って、
もう見ているのもかわいそうなくらいに……」




直也は明日香の顔を見つめ、
明日香の話をじっと聞いていた。




「その子の家で、
ある日、その子の父親がその子の母親を殴ったの。


殴られたその子の母親の顔は、
腫れてパンパンに脹れ上がって、
見ているのが気の毒なくらいだったらしいの……。


その子は、
殴られた母親とその日、
目が合ったとき、
いつもは感じたことのない殺気を感じたらしいの。


背筋が凍るくらいの
ゾッとするような殺気を……。


そしてその日の夜、
その子の家で事件が起きたわ。


その子の母親が
その子の父親を刺し殺したの。


きっともう、
その子の母親は憎しみを抑えきれなかったのね。


その子の父親が死んでからも、
その子母親は
何度も何度もその子の父親に
包丁を突き刺したわ。


それで徹くん、
このお話の最後は
どうなったと思う?」




明日香がそう言って、
徹の顔を見つめた。




「最後に
その子の母親は、
その子も刺し殺して
自分も命を絶ったの。


きっとその子は、
死にたくなかったはずなのに……。


きっとその子は、
まだやりたいことがあったはずなのに……」




僕はその話を聞いて、
思わず明日香に訊いてしまった。




「明日香ちゃん、
明日香ちゃんが言っているその子って……、
いったい誰なの?」
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