笑う門には福来たる!!

誠十郎の指導のおかげで
藤十郎は、生地の名前や色の名前
模様の意味を覚えた


「今日は、兄上とお風呂に入りたい!!」

「誠十郎の歳には、俺は一人で入っていたぞ」

「僕、一人で入る!!」

大好きな兄に近づきたくて、いうことを良くきいた

そして、藤十郎は離れようとしなかった


「またどこかに行っては、嫌です!!」


藤十郎には、病だと言ってあるが

残りの命がわずかだとは、言ってない

なにか、感じとっているのだろう

だからこそ、誠十郎も藤十郎を甘やかさずに、自分が教えられることは、すべて教えたいと思った



「父上、俺が逝った後
コレを土方さんに渡して下さい」

「逝った後でいいのか?
着ている姿をこっそり見なくていいか?」

「はい……父上からと言って下さいね」 
 
「わかった」



紺色にも深い緑にもみえるような

特別な色合いだった

それを着物にして、羽織も作った

帯は、藤十郎と一緒に作った




降りやむ気配のない雨の続く日々

庭の紫陽花を眺めていた



「誠…」



先に逝った我が子を思い、泣いた


「兄上?どこか、痛いの?」

「ううん、痛くない
ちょっと、太陽が恋しくて、さみしくなっただけだ」


「雨が上がったら、外に散歩に行こう?」

「ごめん、外には出られないんだ」

「兄上、僕良いこと考えた!!」

「なんだ?」

「内緒です!!」

何だろうと首を傾げた


翌日

ようやく上がった雨の代わりに

ギラギラ光る太陽が顔を出す



「いってきまぁーーす!!」


藤十郎が一人で散歩に行くと、出て行った





パン パン


「兄上の病が治りますように!!」






神社でお参りをしたのだった



その帰り


「あれ?藤十郎君?一人?」


「沖田さん、土方さん、こんにちは!」


「大きくなったねぇ」


「はい!」


「一人でお参りしてたの?」


「はい!」


「送って行こう」


「大丈夫です!一人で帰れます!」


「しっかりしてるな」


「はい!兄上のように、立派な跡取りになります!!」

「そうか、偉いな」


土方が藤十郎の頭を撫でる


「あっ!!良いこと考えた!!
二人とも、うちに来て下さい!!
兄上が、外に出られなくて、すごくさみしそうなので!!」


その言葉に、二人が目を合わせた

「兄上って、誠十郎ですか?」

恐る恐る沖田が聞く


「僕の兄上は、誠十郎一人ですよ」


「誠十郎が家にいるのか?」


「はい!病で、家から出られないんです
だから、二人が会いに来て下さい!!」


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