落ちてきた天使
「本当は私が出れれば良かったんだけど」



女将さんは申し訳なさそうに眉を下げた。


今日はこの間より少し顔色が悪い気がする。
元気もないし、体調が悪いのかもしれない。


それを尋ねようと「あの、」と口にした時、洋平が休憩部屋に入ってきた。



「洋ちゃん、お疲れ様。手伝ってもらって悪かったわね」

「全然。それより女将さん。寝てなくて大丈夫?」

「平気よ。ありがとうね」



そう言うと、「ちょっと待ってね」と女将さんは店のキッチンに行き、ビニール袋を二つ持ってきて机に置いた。



「餃子よ。帰ったら食べて」



中にはフードパックにたくさんの餃子と、特製のタレまでスポイト容器に入っている。


まだ温かい。餃子の美味しそうな匂いがして、お腹が鳴ってしまいそうだ。



「ありがとうございます」



私と洋平はお礼を言うと、帰る支度をして女将さんとまだ店にいるおやっさんに挨拶を済ませて店を出た。





「腹減ったな〜」



洋平は外に出るなりグーッと両腕を上げて背伸びをしながら言った。



「ごめんね。私のせいで休憩取れなくて」



今日はまだ夕飯を食べていない。
忙しくて休憩の時間が取れなかった。


その忙しさの原因は私にもある。


まだ慣れてない分、手際は悪く、優先順位もわかってない。


洋平一人ならもっと楽だったかもしれない。


そうしたら疲れ方も変わってきただろうに、私なんかに教えながらだからいつもの倍以上疲れたんじゃないかと思う。



だけど、洋平は文句の一つも言わないどころか、バイト中も今も嫌な顔一つ見せない。



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