落ちてきた天使
「何言ってんだよ。彩のお陰でだいぶ助かった。俺一人だったら店の回転もっと悪かった」



サンキューな、とニカッと白い歯を見せる洋平に、ドキッと心臓が跳ねた。



洋平ったら随分と逞しくて頼もしい男になったな。


小学生の頃とギャップがあり過ぎて、ホント困る。


ギャップ萌え、なんてよく言うけど。
それできゃあきゃあ騒ぐ女子の気持ち、今なら少しわかるかも……



余りにも眩しい洋平の笑顔からパッと視線を逸らし、速まる心臓と赤く染まる頬を誤魔化すように話題を変えた。



「あ、あのさ!そういえば女将さんって、今日体調悪かったの?」



心なしか顔色が悪く見えた。


『私が出られれば良かったんだけど』って、店の裏にいたのに出られない何かのっぴきならない理由があるように聞こえたし。


極め付けは、洋平が休憩部屋に入ってきた時に言った『寝てなくて大丈夫?』の一言。


多分というか、あれは絶対にどこか具合が悪いんだと思う。



「ああ…女将さんね」



洋平は眉間に皺を寄せて険しい表情のまま黙りこくる。


その顔が凄く悲しそうというか、苦しそうなのは気のせいなんかじゃない。



18年間の人生で唯一身に付けた私の“特殊能力”が、微かだけど反応してる。


洋平から不穏な空気を感じた。



「いずれわかる事だけど」



いつになく歯切れが悪い洋平。


何かを考えてるかのように視線を地面に落とし、口を少し開くとピタッと動きを止めてすぐに噛むように閉じた。



バクバクと動悸が激しくなる。


何か言ってよ、洋平……


違うって言ってよ……


この少しの沈黙が重くて、ギュッと目を瞑った時。



タイミング悪く私のスマホが鳴り出した。



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