落ちてきた天使
ハッと目を開けると、洋平が胸を撫で下ろしたように息を吐いたのが目に入った。



「出ないの?皐月兄ちゃんじゃない?」

「うん……」



今、あからさまにホッとしてた。
おかしい…やっぱり言いたくもないようなことなんだ。


ホント皐月ったらタイミング悪すぎ。
皐月が電話掛けて来なかったら聞けたのに。


ちょっとごめん、と洋平に断りを入れて電話に出ると、案の定電話越しに皐月の声が聞こえた。



【遅い!今何処?】



もしもし、という前に耳が痛くなるぐらい大きな声で言われ、咄嗟に電話を耳から遠ざける。



「遅いって、バイト22時までだって言ったじゃん」



邪魔された挙句、開口一番に怒られて少し不機嫌な私は、ぶすっとした声で答える。



【もう30分も過ぎてる。駅近ならそんな掛からないだろ?】

「22時ぴったりに店を出れるわけじゃないんだから仕方ないでしょ」



呆れた。どれだけ過保護なのよ、と頭の中で悪態を吐く。


だけど、それを本当に口にしたら皐月がもっと煩くなるのは目に見えてるのでグッと堪えた。



【とにかく迎え行くから、お前は真っ直ぐ帰って来い。いいな?】

「え?ちょっ、待って……あっ!切れた」



一方的にプツンと電話は切れた。
次に耳元に聞こえてきたのは、無情にも無機質な機械の音。



もう!ホント何なのよ……
ちょっと勝手過ぎない⁉︎



「少しは人の話聞けっつーの」



通話終了の文字が表示されたスマホの画面に向かって、ため息混じりに呟く。


迎えに行くって、私のことどれだけ子供扱いするのよ。


私、高3だよ⁉︎
普通、バイト帰りに迎えに来るなんて、本当の親でも滅多にしないと思うんだけど。


遅いって怒られるほど遅くなってないし。


そもそも皐月はいつもいつも強引過ぎる!
俺様だし。あれは絶対に自分が一番正しいとか思ってるタイプだ!





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