落ちてきた天使
「皐月兄ちゃん何だって?」



クックッと笑いながら洋平が言う。


さっきの悲しそうな表情は何処にもなく、いつもの明るい洋平だ。


あれは気のせいだったのかなって思ってしまうほどに。



「今から迎えに行くからお前は真っ直ぐ帰って来いって。ホント、勝手だよね。私の話なんて聞きやしないんだから」



もう嫌になっちゃう、と乾いた笑みを浮かべると、洋平は「仕方ないさ」と私を宥めるような声色で言った。



「さっき、施設長からメールが来たんだ」

「メール?」

「駅前に変質者が出たっていう緊急メールだよ。施設入所者、関係者に一斉送信されるんだ」



洋平はメール画面を私に見せた。


確かに、夜10時頃変質者が出てまだ犯人は捕まってないのでなるべく早く施設に戻るように、と書いてある。



「でもなんで皐月にもこのメールが?」

「一応関係者だからじゃない?彩を預かってるし。というか、彩にもメール届いてるだろ?」



そういえば、何かメールが届いてたような気がする。


急いで開くと、洋平と同じような内容のメールが届いていた。


私のは、【施設に戻るように】じゃなくて【家に帰るように】だけど。



「だから心配なんだよ。これでも抑えてた方じゃないかな」

「抑えてた?開口一番に怒鳴ってきたのに?」

「言えないんだよ、心配だって。ほら、皐月兄ちゃんって素直じゃないだろ?」



洋平の言う通りだ。皐月は素直じゃない。
こういう優しさは本当に分かりにくい人だ。


そういう人だとわかってるのに、分かりにく過ぎてつい意地っ張りになっちゃう。



「良い大人なのにね」



皐月は私よりもうんと大人なんだから、もう少し素直になってくれていいと思う。なんて、頬を緩ませながら言っても、何の嫌味にもならないか……



皐月の優しさがわかった途端、甘く疼く胸。


それは胸の奥深くまで浸透して、私の心をほっこり温かくした。



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