落ちてきた天使
「そんで今は寂しそうな顔してる」

「ーーっ、寂しそうな顔なんて」



中垣さんの言う事が図星過ぎて、咄嗟に出た言葉を飲み込んだ。



本当はドアが開く音が聞こえた時、皐月が追い掛けて来てくれたのかもってドキッとした。


でも、出て来たのは皐月じゃなく中垣さんで。



なんだ……皐月じゃないのか。
なんで皐月じゃないのよ……って、凄くショックで泣きたくなった。



私、慢心してたのかな。


皐月は絶対私を追い掛けて来てくれるって。


皐月は言うほど私のことなんて想ってないのかもしれない……



中垣さんは「やれやれ、世話が焼ける二人」と半笑いすると、私を穏やかな目で見据えた。



「皐月のこと許してやって。あいつ素直じゃないだけで、本当は凄く彩ちゃんのこと大切に思ってるから」

「本当にそうなんでしょうか……」



大切に思うなら、どうしてここに皐月はいないの?


私のこと心配じゃないからでしょう?


胸が痛い。
皐月のことを考えると、胸の奥が詰まって涙が出そうになる。



「彩ちゃんは皐月のこと好きなんだね」

「違います!」

「じゃあなんでそんな泣きそうなの?」

「ーーーっっ!」



好きじゃない、なんて嘘でも言えなかった。


胸を焦がすこの気持ちが何なのか、経験のない私でも知ってる。



でも、私はもう二度と大切なものは作らないって決めたんだから。


この気持ちに名前をつけちゃいけないの。






< 115 / 286 >

この作品をシェア

pagetop