落ちてきた天使
私なんかのためにそこまでして馬鹿じゃないの。


優し過ぎるんだよ、皐月は。
私を甘やかし過ぎる。


私はここまでしてもらえるような人間じゃない。



「見たかったんじゃないかな。彩ちゃんの笑顔。あいつ、彩ちゃんの笑った顔が一番好きだって言ってた」



笑った顔が好き、か……
純粋に嬉しい。だけど。


「皐月は本気なんでしょうか?」



わからなくなる。


皐月のことを知るたびに、こんな素敵な人が私を想ってくれてるなんて何かの間違いなんじゃないかって。


不安で、これは現実なのかなって信じられなくなるんだ。


だってそうでしょう?
私には秀でるモノが何もない、ただの高校生の子供。


誰がどう見たって、皐月には不釣り合いだもん。皐月の隣りにいたら妹にしか見えない。



「よしよし」と、ペットを可愛がるように頭をワシャワシャ撫でてくる中垣さん。


「ちょっと…」とその手を掴もうとすると、中垣さんはそれを更に避けて私の耳元に顔を寄せた。



「それは本人に聞いた方がいい」



え……本人?



「ーーーきゃっ!」



中垣さんの言葉の意味を考える間もなく、突然肘を引っ張られると後ろから抱き締められるように首元に腕が回った。



「彩から離れろ、晃」



鼓膜にダイレクトに響く皐月の余裕のない焦った声と吐息。


ドキッと心臓が跳ね上がった。


細いけど筋肉がしっかりついた腕。


背中に当たる硬い胸板。


安心する体温。


いちいち胸を擽ぐる声。



皐月が追い掛けて来てくれた……



皐月の全てが私を嬉しくさせる。




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