落ちてきた天使
「私から一体どれだけのものを奪えば気がすむのよ……」



震える瞼を閉じると、涙が頬を伝った。



“あの日”この地で、私の不幸な人生は始まった。


私が大切だと思うものは全て奪われていく。


奪われる度にもう大切な物は作らないって心に決めても、結局私は弱くて。


何度も…何度も何度も後悔した。


だから、今度こそは。
もう何も失わないために。


不幸を自分の弱さで繰り返さないように。


私は自分自身に見せしめとして、不幸が始まったこの地に戻ってきた。


決意が揺らぎそうになっても、ここなら踏み止まれる気がしたから。



なのに、不幸というものは私が何もしなくても訪れる。


それなら私はどうしたらいいの?



「お前……」



俯いた私の頭上から、失礼男の驚き戸惑った声が聞こえた時。



「彩ちゃんっ‼︎」



私を呼ぶ聞き慣れた声が聞こえて顔を上げた。


すると、以前からお世話になっている施設長が心配そうな顔をしながら人垣をかき分けて駆け寄って来るのが見えた。



「施設長……」



施設長は側に来るなり私を抱き寄せると、「良かったわ…無事で」と安堵のため息を漏らした。



「皐月君から彩ちゃんがアパートにいないって聞いて心配して来てみたのよ」

「ご心配お掛けしてすみません」

「怪我はない?」



施設長は私を離すと、ぺたぺたと頬や肩、腕を確かめるように触る。


柔らかくて小さな手が温かくて、ぶわっと更に涙が溢れた。




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