落ちてきた天使
まさか今の流れで抱き締められるとは思わなくて、ドキッと胸が跳ね上がる。


皐月の温もりや香りに一気に加速する鼓動。


私ってば、本当に現金なやつで。
さっきまでむかっ腹が立ってたのに、一瞬で幸福感で胸がいっぱいになった。


皐月を好きだと認めた途端、その想いがどんどん積もっていく。



「皐月?」

「ん?」

「ごめんね。怒ってる……?」



皐月の腕の中は最強だ。


温かくて、心強くて、優しくて。
素直になれる。



「怒ってないよ」



それに、心なしか皐月の声もいつもより数倍甘い。


さっきの「ん?」ってやつなんてホント反則。
高圧的な感じからの甘い雰囲気に、恋愛経験値ゼロの私はイチコロだ。



「つーか、彩が何か隠してんのバレバレだったし」

「え?」

「動揺し過ぎ。嘘ついてますって言ってるようなもんだろ、アレは」



皐月は「ばーか」と言いながら、頭を撫でる。


言葉とは裏腹に、優しくて愛でるような手つき。


ゆっくりと指で髪を梳いて、うなじから首にかけて手を滑らせ、人差し指で私の顎を持ち上げた。


交わる視線。
胸がとくんと鳴った。



「何か言う事があるだろ?」

「ーーーっ!」



男のくせに色っぽい唇が鼓膜を痺れさせるような低い声を紡ぐ。


皐月はバイトの事を言ってるんじゃない。


私の気持ちをーーー。


私が昨日の覚悟して受け入れた皐月への想いを、言わせようとしてるんだ。




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